自己啓発

正論で敵を作らない「是々非々」の技術|荀子の知恵と心理学で解く、信頼されるリーダーの判断基準

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「佐藤くん、今回の件は是々非々で判断してくれ」

 

会議室で上司からそう告げられた瞬間、胃のあたりが重くなるような感覚を覚えていませんか?

 

対立する部署の板挟みになり、どちらの顔を立てても角が立つ。

 

正論を言えば「冷徹だ」と距離を置かれ、曖昧に濁せば「リーダーシップがない」と詰められる。

 

そんな「正解のない問い」に、あなたは今、一人で立ち向かおうとしているはずです。

 

結論からお伝えしましょう。

 

是々非々とは、単なる「白黒つける裁き」ではありません。

 

それは「共通の目的に対して、どこまでも誠実であること」を指します。

 

この記事では、2000年以上前の知恵である「荀子(じゅんし)」の思想と、現代の「アサーティブ・コミュニケーション」を掛け合わせ、敵を作らずにプロフェッショナルな信頼を勝ち取るための具体的な技術を伝授します。

 

この記事を読み終える頃、あなたは「是々非々」という言葉を、自分を守り、チームを救う最強の武器として使いこなせるようになっているはずです。

[著者情報]

市川 真治 (いちかわ しんじ)
組織開発コンサルタント / エグゼクティブコーチ
延べ300社の組織改革に従事。かつては「正論」を武器に周囲を論破し、チームを崩壊させた苦い経験を持つ。その反省から東洋思想と心理学を融合させた独自の対話術を確立。中間管理職向けの「嫌われない正論の通し方」研修は、現場の痛みがわかる内容として高い支持を得ている。


なぜ「是々非々」の判断は、いつも私たちを不安にさせるのか?

「正しいことを言っているはずなのに、なぜか周囲が冷ややかだ」

 

そんな孤独を感じたことはありませんか?

 

私もかつて、チームリーダーとして同じ壁にぶつかりました。

 

A部署の言い分もわかる、B部署の苦労も知っている。

 

その上で、プロジェクトの成功のために「非」がある方に「非」と告げる。

 

それはリーダーとして当然の職務です。

 

しかし、現実には「正論」を突きつけた瞬間に相手の表情が曇り、心のシャッターが下りる音が聞こえてくる。

 

私たちが「是々非々」を恐れる最大の理由は、「意見の否定」が「人格の否定」として受け取られてしまうリスクにあります。

 

特に忖度(そんたく)を重んじる日本のビジネス現場では、客観的な是・非の判断が、しばしば「あいつは冷たい」「協調性がない」という感情的なレッテル貼りにすり替わってしまいます。

 

しかし、安心してください。

 

あなたが感じているその不安は、あなたが「周囲との関係性」を大切にしようとしている誠実さの証でもあります。

 

問題はあなたの性格ではなく、単に「伝え方の技術」を知らなかっただけなのです。

 

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: 正論を言うときは、まず「相手の背景」への共感をセットにしてください。

なぜなら、人は「自分の苦労を理解してくれている」と感じて初めて、耳の痛い正論を受け入れる準備ができるからです。かつての私は、背景を無視して結論だけを急いだために、多くの敵を作ってしまいました。


古典に学ぶ本質:荀子が説いた「是々非々」は、最高の誠実さである

ここで一度、言葉の原点に立ち返ってみましょう。

 

「是々非々」という言葉の生みの親は、中国戦国時代の思想家・荀子です。

 

彼はその著書の中でこう説いています。

 

「是を是とし、非を非とする、これを知という」

 

ここでいう「知」とは、単なる知識のことではありません。

 

「正しいことを正しいと認め、間違っていることを間違いと認める誠実さ」こそが、人間としての最高の知性であるという意味です。

 

つまり、荀子が定義した「是々非々」と「知的な誠実さ」は、切っても切れない同義の関係にあります。

 

上司があなたに「是々非々で」と求めたとき、それは「誰が正しいか」を裁けと言っているのではなく、「会社やプロジェクトの目的に対して、何が誠実な選択か」を問い直せと言っているのです。

 

この本質を理解すると、あなたの判断に「私情」ではない「論理的な後ろ盾」が生まれます。

 

【実践】角を立てずに「是」と「非」を伝える3つのステップ

では、具体的にどう伝えれば、摩擦を避けつつ「是々非々」を貫けるのでしょうか。

 

現代心理学と交渉術のエッセンスを凝縮した3ステップをご紹介します。

ステップ1:「人」と「事」を分離する

ハーバード流交渉術の鉄則です。

 

「あなたの案(事)」に反対しているのであって、「あなた(人)」を否定しているのではないという境界線を明確に引きます。

 

「〇〇さんの考え方はおかしい」ではなく、「この提案に含まれる〇〇というデータ(事)について検討したい」と、主語を「人」から「事象」へ移します。

ステップ2:「共通の是(ゴール)」を再確認する

対立が起きるのは、お互いが見ている「是」の基準がズレているからです。

 

「プロジェクトの納期を守るという共通の目的(是)に照らした場合、この遅延は『非』と言わざるを得ない」というように、判断の基準を「私の意見」ではなく「共通の目的」に置きます。

ステップ3:アサーティブ(誠実・対等)に語る

自分の意見を押し殺すのでもなく、相手を攻撃するのでもない。

 

誠実で対等な「アサーティブ・コミュニケーション」を用います。

 

特に有効なのが、自分を主語にする「アイメッセージ」です。

📊 比較表
信頼を失う言い方 vs 信頼を勝ち取る「是々非々」の言い方】

場面 角が立つ言い方(Youメッセージ) 信頼される言い方(Iメッセージ)
ミスを指摘する 「あなたの確認不足が原因です」 「この手順だとミスが起きやすいと私は懸念しています
提案を却下する 「その案は現実的ではありません」 「予算の制約を考えると、今の案を通すのは難しいと判断しました
対立を裁く 「Aさんの言うことが正しいです」 「プロジェクトの目的(共通の是)に照らすと、Aさんの案が最適だと考えます

是々非々なリーダーが、チームに「心理的安全性」をもたらす理由

「是々非々で判断し続けたら、チームがギスギスしてしまうのではないか?」

 

そんな心配は無用です。

 

実は、その逆が真実です。

 

Googleが実施した生産性向上プロジェクト「プロジェクト・アリストテレス」によれば、最高の成果を出すチームには「心理的安全性」があることが判明しました。

 

心理的安全性とは、単に仲が良いことではありません。

 

「メンバーが互いに、忖度なしに是々非々の議論ができる状態」を指します。

 

リーダーであるあなたが公平な「是々非々」の基準を示すことで、メンバーは「このチームでは、誰が言ったかではなく、何が正しいかで判断される」という安心感を得ます。

 

「心理的安全性」と「是々非々の議論」は、チームの生産性を高めるための両輪の関係にあるのです。

 

「心理的安全性の高いチームのメンバーは、ミスを認めても、質問をしても、あるいは新しいアイデアを提案しても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと確信している。」

出典: Google re:Work - チームの効果性 - Google, 2015年

 

あなたが「是々非々」を貫くことは、短期的には摩擦を生むかもしれませんが、長期的には「このリーダーの下なら安心して本音が言える」という強固な信頼関係を築くことにつながります。

まとめ

「是々非々」とは、孤独な裁きではありません。

 

それは、あなたの大切なチームを「忖度」という停滞から救い出し、「誠実さ」という光を当てる行為です。

  1. 荀子の教え: 是々非々は、知的な誠実さの表明である。
  2. 実践のコツ: 「人」と「事」を分け、共通のゴールを主語にする。
  3. 未来の姿: 公平な判断が、チームに最高の心理的安全性をもたらす。


明日からの会議で、いきなり白黒つける必要はありません。

 

まずは、対立する両者の前で「私たちの共通の目的(是)は何でしたっけ?」と問いかけることから始めてみてください。

 

その一言が、あなたを「板挟みのリーダー」から「信頼される調整役」へと変える第一歩になります。

 

あなたの誠実な判断を、見ている人は必ずいます。自信を持って、是々非々の道を歩んでください。

 

 

[参考文献リスト]

  • 荀子(精選版 日本国語大辞典 / コトバンク)
  • Google re:Work - チームの効果性
  • フィッシャー、ユーリー『ハーバード流交渉術』(Getting to Yes)
  • 特定非営利活動法人アサーティブジャパン(アサーティブ・コミュニケーションの定義)
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